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『陥没地帯/オペラ・オペラシオネル』 蓮實重彦著

『陥没地帯』
この小説は他の作品の引用あるいは模倣で構成されているのかもしれない。
足首にこだわるところは小川国夫の『試みの岸』、食堂の女将はサルトルの『嘔吐』など、読み進むうちに他の作品を連想してしまう。
建物や川がすべて対象に配置された街が舞台になっており、砂丘と水とが垂直の時間でつながっている。こういう抽象的な舞台設定はクノーの『聖グラングラン祭』を思わせる。
読みにくいかと問われれば、むしろ読み易いといえる。少なくともソレルスなどの翻訳小説よりも読み易い。別に美文である必要はないが、比喩と形容詞が極限まで削減された文章であり、禁欲的な作風である。

『オペラ・オペラシオネル』
この小説は映画に似ているが、映画であれば最後の場面でスパイ物と決定されるだろう。
だが、小説としてみると、それは上演されたオペラの最後の場面を読者は目にしているのかもしれない。
もし標題を訳すとしたら、オペラシオネルは形容詞だから、「オペラ作戦」ではない。それではイスラエルイラク原子炉爆撃になってしまう。やはり「作戦のオペラ」ではないだろうか? 用例としてランボーの「俺は架空のオペラとなった」Je devins un opéra fabuleuxを連想する。
するとこの作品の主題は「オペラ」であると作品のタイトルで決定されていることになりはしないか、否、その場合でも「作戦のオペラ」というコードネームのスパイ物かもしれない。というように、この小説は物語に似せて、物語の決定性を宙吊りにするのである。