『失われし書庫』 ジョン・ダニング著 宮脇孝雄訳

昔は何時間も読書に没頭できたものだが、現在は集中力がなくなってしまった。これは視力の衰えで疲れ易くなったのかもしれないと思い、読書の習慣を取り戻すため、あまり肩の凝らない本を読んでみることにした。
などと軽い気持で選んだのだが、良く出来た小説である。最初から引き込まれてしまった。そうそう、こんな風に気がついたら半分ぐらい読んでいたというような本を昔はたくさん読んだものだ。
推理作家である著者自身が古書店経営の経歴もあり、古書に対する愛着がよく描き込まれている。
この本はイギリスの探検家リチャード・バートン南北戦争の一因になったのではないかという陰謀史観がベースとなっているのだが、私はこの探検家について『千夜一夜物語』の訳者としてしか知らないので、どこまでが史実でどこからが虚構なのかがよく分からない。wikiによると1860年に北米横断したのは史実のようだ。南北戦争が1861年だから、時期としては合致している。
歴史の中にトンデモ系の小ネタを挟むという手法は、初期のクライブ・カッスラーに似たテイストを感じる。まあ、発想自体はやや面白いという程度であるが、書き込みが具体的かつ詳細なので、読んでいて眠くはならない。
この小説は推理小説のお約束どおり、最後に殺人事件の真犯人が誰であるかが明らかになるのだが、それよりも謎であるのは、バートンの日誌に何が書いてあったのかが、最後まで明らかにされないというところである。
だが、そのことは別に明らかにしなくても良いことが分かるような仕掛けになっている。
つまり謎が日誌という一つの物体となり、その物体が・・・
これ以上はネタバレになるので止めておくが、謎を提示しておいて、最後まで明らかにせずに読者を納得させるというのは、推理小説として面白い手法であると思う。謎解きよりも私はそちらの方に感心した。