『世界史の極意』 佐藤優著

本書は世界史全体を教養として学ぶということではなく、世界中で生じている現在の紛争を理解するために世界史を踏まえるという体裁になっている。
著者はそのための方法としてアナロジーを重視しているが、それは過去との類似によって現代を理解するということではなく、自分とは異質の相手に内在する論理をアナロジーで理解するということである。
徹底したリアリストである著者は現代が新・帝国主義の時代であるとしているが、19世紀の帝国主義との違いは二つあり、それは全面戦争が不可能なことと、ハイコストの植民地政策をとらないことだが、それ以外の資本輸出による他国の収奪や国境線変更による勢力均衡はまったく同じだというのである。
例えば、米国が9.11とリーマンショックで弱点を見せると、ロシアがウクライナ、中国が尖閣諸島などへ手を伸ばそうとするのだが、これは勢力均衡が崩れると国境線が変更して均衡線に達するのだから当然の動きだとみている。
著者によると日本もまた帝国主義国であり、企業の海外進出は現地の雇用を増大させるなどという脳天気なものではなく、安い賃金と原料をねらった資本輸出による収奪なのである。
また帝国主義は同時に自国内でのナショナリズムを醸成することになる。例えば沖縄はスコットランドと類似した立場にあり、スコットランドは2014年9月の住民投票で独立否決したとはいえ、イギリスから差別されている事実を改めて自覚したのであり、2014年11月に翁長知事が大差で選出されたのも無関係ではないとしている。著者は参考としてスコットランド住民投票に対する琉球新報の社説を引用している。
そこで著者は「品格ある帝国主義」を提唱するのだが、そのモデルはイギリスである。著者はイギリスの歴史教科書を参照しているが、そこではイギリス帝国主義の失敗の研究が中心となっている。「品格」というのは自国が帝国主義であることを自覚したうえで異質の相手に内在する論理を理解しようとする努力のことである。そういう意味では、確かに異質の相手を理解しようとしない日本の帝国主義には品格が欠けているようだ。
(私見:日本もまた琉球王国を編入した帝国主義国なのだが、やはり沖縄県として日本と同質の部分としか思えない。だから沖縄人に内在する論理を理解しようともしないのであろう)
本書によってウクライナ問題、中東問題をクリアに理解することができる。
宗教についてもイスラムキリスト教の違いがよく分かる。ローマ法皇生前退位も、新聞報道では教会内部の腐敗が原因だとしているが、著者はイスラムとの関係で分析している。そういえば、天皇生前退位は唐突な印象を受けるのだが、調べてみるとローマ法皇だけでなく、オランダ、ベルギー、スペインと高齢の国王の生前退位が相次いでいるので、世界的な流れでは極めて当然のことのように思われる。
本書は情報量が多いので、統一した理解を得るには繰り返して読む必要を感じる。