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『カント哲学の奇妙な歪み』 冨田恭彦著

本書の最大の特徴は、カントを単独で取りあげるのではなく、ロック、バークリ、ヒュームとの関係において考察している点である。それも哲学史的な教養としてではなく、カント哲学とイギリス経験論の各々の内在論理をふまえて、それらの相互関係を通してカン…

『カントの時間論』 中島義道著

例えば目の前の机が現実の客観的な存在であり、想像された机でもなく、夢で見た机でもないと何故いえるのか? また、それにもかかわらず現実の机とは別に、想像された机が存在しうるのは何故か? 本書は、そうした疑問に明確な解答を示している。 やや図式的…

『やがて君になる』 仲谷鳰著

一昔前なら私のような年齢の男がこの種の漫画を読むことはあり得なかったのだが、(今でもあり得ないのかもしれないが)いずれにせよ電子本が普及したせいで気軽に読むことができるようになったのは漫画界の発展にとってまことに慶賀すべきことである。 精神…

『マチウ書試論』 吉本隆明著

昔、初めてこれを読んだ時、異様に感じたのはタイトルにもみられる独特のキリスト教用語の読み方である。キリスト教にあまり関心のない私ですら、マタイの名前ぐらいは聞いたことがある。それが「マチウ」である。イエスは「ジェジュ」、パウロは「ポウル」…

『中型製氷器についての連続するメモ』 岩成達也著

この詩集には原文でマラルメの次の一節が引用されている。「その純粋な輝きがこの場所にあてがう幻影は/無駄な逃亡の間、この白鳥が身に背負う/侮蔑の冷ややかな夢想に浸り、動くことはない」S.マラルメ<白鳥>のソネット。 これは池の氷に閉ざされた白鳥…

『レオナルドの船に関する断片補足』 岩成達也著

岩成達也の詩集である。「レオナルドの船」という題名から、船が主題なのかといえば、そうではなく、マリアが主題のようである。まず「半島にて」という冒頭の詩で、十字架を背負った船が巨大なフォルテのように垂直になり、「そのままのすがたで、かぎりな…

『巨人頭脳』 ハインリヒ・ハウザー著 松谷健二訳

SF読むのに理由はいらないだろうが、まあ、暇つぶしといえば熱狂的なSFファンからお叱りを受けるかもしれない。かくいう私は、中学生の頃、創元推理文庫を総ナメする勢いで読んだものだが、50年前当時はまだ出版点数も少なかった。スミス、ハインライン、ア…

『サルトルとマルクス』 北見秀司著

一昔前ではあまり売れそうにないタイトルだが、現在では逆に読書欲がそそられる。内容も期待にたがわず、フーコー、ドゥルーズ、ネグリらの見解をふまえており、一時、流行しかかった趣味的なサルトル懐古ではなく、ポストモダンを踏まえた本格的な論考とな…

『フロイト講義<死の欲動>を読む』 小林敏明著

ドゥルーズの『マゾッホとサド』を読んでいて、「死の本能」について知識がないので、この本で補充することにした。(「死の欲動」「死の本能」ともにTodestriebの訳語である)著者の本は何冊か読んだことがあるが、いずれも斬新な視点が提示され、これまで…

『言葉と物』 ミシェル・フーコー著 渡辺一民・佐々木明訳

その1 ウチは朝日新聞だが、近頃広告の多さが目に余る。これに比べると、たまに買う日経新聞は実に丁寧な記事が満載で読み応えがあるのだが、ウチのカミさんが経済ニュースばかりでイヤだというので仕方なく朝日新聞にしている。 それはさておき、朝日新聞…

『ロートレアモン全集』

その1 今回は「ゴーマンかましてよかですか?」と言わねばならないが、そう言えば、おめえはいつだって傲慢ではないかと言われそうだが、私は根は礼儀正しい小心者であって、ただ、役人じゃないのだから情報量優先のため丁寧語や婉曲表現をあえて使わないだ…

『マゾッホとサド』 ジル・ドゥルーズ著 蓮實重彦訳

その1 今さら、この本を読んでサドとマゾッホは異なるなどと教えられても、ああ、そうですか、という感想しかない。一度でもサドとマゾッホの小説を読めば、別に精神分析とか難しいことを言わなくても、両者がまったく別物であることは明らかである。ドゥル…

『フランドルへの道』 クロード・シモン著 平岡篤頼訳

クロード・シモンはずっと気になっていた作家なのだが、どうしてなのか分からず、なにしろ、あのクレジオが自分よりも上だといい、蓮實重彦がそれは当たり前だというほどの作家であるから、きっと凄いに違いない、というかあまり考えずに書いているようにし…

『文脈病』 斎藤環著

長い間、私は精神分析に興味がなかったのだが、それは精神病理によって作品を研究するパトグラフィーのくだらなさに辟易していたからである。私にとって作家の作品はそれ自体で価値があり、何らかの精神病理に還元しうるものではありえない。そのような研究…

『テクストの快楽』 ロラン・バルト著 沢崎浩平訳

標題からは読書の楽しみぐらいしか思い浮かばないのだが、そんなことであれば、別に言われなくてもよく分かっているので読む必要はないだろう。著者によると快楽・悦楽・退屈の三つの概念はそれほど厳密ではないものの、一応、忘我を基準として分類されてい…

『陥没地帯/オペラ・オペラシオネル』 蓮實重彦著

『陥没地帯』この小説は他の作品の引用あるいは模倣で構成されているのかもしれない。足首にこだわるところは小川国夫の『試みの岸』、食堂の女将はサルトルの『嘔吐』など、読み進むうちに他の作品を連想してしまう。建物や川がすべて対象に配置された街が…

『青の物語』 ユルスナール著 吉田可南子訳

『青の物語』ほとんど習作に近いものだが、ヨーロッパから来た商人達が洞窟でサファイアを得て、艱難辛苦ののちにヨーロッパへ帰り、サファイアを手放すという物語であるが、何かの長篇の下書きのようである。 『初めての夜』スイスへの新婚旅行でレマン湖に…

『共同幻想論』 吉本隆明著

正直に言うと、私はこの本が未だによく分からないのだが、その理由は、吉本が一体どこへ引っ張って行こうとしているのか先が見えないことにある。その他にも用語を統一しないことや、ひらがなを多用する独特の癖や、過度にポレミックなところも気に障るので…

『経済数学の直観的方法 確率・統計編』 長沼伸一郎著(その2)

前回述べたように著者は非常に大事なことを指摘している。ブラウン運動において時間と共にボラティリティが拡大するのは、時間の性質によるのではないということである。あくまで時間と共にジグザグ回数が増えることがボラティリティ拡大の原因である。この…

『経済数学の直観的方法 確率・統計編』 長沼伸一郎著(その1)

著者によるとこの本は文系・理系を問わず、あくまで確率・統計を理解することを主眼としており、ファイナンスはその題材として位置付けられているようなので、いつもながら本質的な誤解を晴らしてくれるかもしれないと期待しつつ勉強し直すことにした。「初…

『経済数学の直観的方法 マクロ経済学編』 長沼伸一郎著

amazonで予約注文した待望の本である。内容が濃いので一気読みはできなかったが、これほど夢中で読んだ本も珍しい。以前、同じ著者の『現代経済学の直観的方法』をPDF版(市販本ではなく有償配布)で読んだことがあるが、内容はまったく異なる。前著では金融…

『詩学講義 無限のエコー』 吉増剛造著

この本を読んでいると、“ひょっとして観念奔逸、連合弛緩かも・・・”と思ってしまうのだが、そう思うのは読み手である私が息苦しい自我にとらわれているからではないかと思う。俗人として読むとどのような詩も観念奔逸であるようにみえる。例えば書き出しが…

『原子心母』 椹木野衣著

この本はピンクフロイドではなく現代芸術についての論考であるが、ここまで分かり易く説明している本は珍しい。まず著者は印象派の説明から始めているが、印象派における眼の重要性を強調している。それは図式的に言えば外面世界を対象とする古典芸術から内…

『<主体>のゆくえ』 小林敏明著

この本の題名からはフロイトやラカンの解説を想像するのだが、内容は日本における主体概念の受容史である。あてがはずれたように思ったのだが、期待にたがわぬ斬新な視点で圧倒される。著者は主観Subjektについてハイデッガーに張り合うような緻密さで語源探…

『マネの絵画』 ミシェル・フーコー著 阿部崇訳

私は絵に関心はあるものの、見てもよく分からない。美術館へはたまに行くが、まあ、たいていはあまり時間をかけずに出てしまう。ダリの「ヴィーナスの夢」を見た時は、しばらく呆然としたが、それはあまりにもデカい絵でびっくりしたからである。イヤホンで…

『西田幾多郎の憂鬱』 小林敏明著

私は他人の不幸話が好きではない。この本の前半は西田幾多郎の不幸話が続くので、それも半端でない不幸話だから、読んでいてだんだん痛くなってくる。さりげなく短く書いてあるので断定できないが、恐らく著者にも西田と同様の経験があるのであろう。はじめ…

『生き延びるためのラカン』 斎藤環著

そろそろ手強い本を読んでみたいと思うのだが、また安易に入門書を読んでしまった。ドゥルーズの『アンチ・エディプス』には関心があるんだけど、そもそもエディプス・コンプレックスが何であるか分からんのだから、読んで分かるわけがない。では手っ取り早…

『スピノザの方法』 國分功一郎著

スピノザに関心のある人なら主著『エチカ』を理解したいと思うであろう。しかし本書は『エチカ』についてはさわりの部分(神の存在証明)に触れるだけで、その前段階である『知性改善論』と『デカルトの哲学原理』の検討に大半が費やされている。スピノザの…

『愛の渇き』 三島由紀夫著

近頃、あらためて三島由紀夫のありがたさが分かってきた。実際に他の小説家と比較してもダントツに面白いのである。この小説はどちらかといえば地味な作品なのだが、それでも面白い。この小説が格段に出来が良いのでもあるまいが、久しぶりに文章を読む快楽…

『20世紀美術』 高階秀爾著

この本は逸話を交えた親しみやすい内容であるとともに、論述も雄弁であり納得させられる。著者はまず絵画と彫刻の歴史を、オブジェとイマージュの二元論で解釈している。古典芸術の絵画は二次元のイマージュによって想像上のオブジェ(モナリザ、聖母子など…

『柄谷行人蓮實重彦全対話』

旅行には細切れの時間でも気軽に読める対談集がよかろうと思い選んだのだが、はじめの内はそれこそ両人が拒んでいるはずの文壇内部の内輪もめのような話が続き、近親憎悪のような感じがしてあまり面白くない。二人の間には何か共有された苛立ちというものが…

『批評あるいは仮死の祭典』 蓮實重彦著

さて蓮實重彦から読み始めるとしてどこまで遡るかであるが、いっそ手持ちの中で最も古いこの本まで遡ってみた。奥付きをみると1974年発行とある。ケバケバしい題名なので留学後の未熟な若書きかと勘違いしていたが、安岡章太郎論や藤枝静夫論を発表した後の…

『路面電車』 クロード・シモン著 平岡篤頼訳

本の帯に、「堀江敏幸氏推薦」とあり、一体誰だっけ・・・と思ったのだが、思い出せばフィリップ・ソレルスの『神秘のモーツァルト』の訳者であった。作家でもあるそうだから、この人の推薦に広告価値があるということだろう。クロード・シモンなら別に推薦…

『反=日本語論』 蓮實重彦著

この本は著者にしては珍しく家庭内の身辺雑記をまじえたエッセイのような趣きがある。しかし、それはあくまで趣きであって、読み進むうちに、なぜそのような書き方をしているのか、その必然性が分かるような仕掛けになっている。つまり、著者は当時流行して…

『失われし書庫』 ジョン・ダニング著 宮脇孝雄訳

昔は何時間も読書に没頭できたものだが、現在は集中力がなくなってしまった。これは視力の衰えで疲れ易くなったのかもしれないと思い、読書の習慣を取り戻すため、あまり肩の凝らない本を読んでみることにした。などと軽い気持で選んだのだが、良く出来た小…

『文学批判序説』 蓮實重彦著

「序説」というタイトルからすると一貫した論説を予想するのだが、内容は9つの作家・作品論と文芸時評などで構成されている。論じている対象が多岐にわたり、とりとめもないのだが、それでもこの本について触れたくなったのは、吉本隆明に対して著者が示し…

『アウトサイダー』 コリン・ウィルソン著 中村保男訳

私のような哲学好き、正確に言えば翻訳哲学好事家は、それにしても一体何を哲学に求めているのか? まず、哲学が現実社会に何の役にも立たないのは今更いうまでもない。ならば詩や小説と同じように心を豊かにするかといえば、これも疑問である。豊かになるど…

『漱石論集成』 柄谷行人著

本書は漱石論として完璧であり、文章に快楽が乏しい感じもするが、そこは実際に漱石を読むことで補えばいいだろう。快楽が乏しいというのは賞賛であって、つまりこの評論は文芸評論らしくないということである。いわば漱石をマルクスのように読み解いており…

『いまこそ、ケインズとシュンペーターに学べ』 吉川洋著

本書は評伝と理論内容の入門的紹介を兼ねたものであり、評伝に比べて理論内容の言及は少ないものの理論の発展過程がよく分かる。文献紹介も豊富であり読書欲が刺激される。以下、印象に残った部分をメモする。○効用価値説では投資財の価値を説明できない。こ…

『世界経済の読み方』 降旗節雄編著

さすが宇野理論というか、マルクス『資本論』の根本的欠陥を自ら指摘しつつ科学的に論述が進められている。本書によると、『資本論』の根本的欠陥は、その内在する論理のゆえに国家の生成を理論的に解明できないという点にある。『資本論』の論理から生じる…

『対話でわかる 痛快明解 経済学史』 松尾匡著

例えば古色蒼然たる経済学史の本を読んでいて「投下労働価値」などという言葉が出てくると、「もう終わった概念だし・・・」という気がして本気で考える意欲が生じない。本書は経済学史には珍しい会話体の入門書だが、登場人物の名前が「江古野ミク」という…

『世界史の極意』 佐藤優著

本書は世界史全体を教養として学ぶということではなく、世界中で生じている現在の紛争を理解するために世界史を踏まえるという体裁になっている。著者はそのための方法としてアナロジーを重視しているが、それは過去との類似によって現代を理解するというこ…

『恐慌論』 宇野弘蔵著

個別的経験は、社会的関連にまで抽象されてこそ理論化される。(本書22頁) この一文が本書の性格をよく表している。タイトルは『恐慌論』であるが、著者は現実の恐慌現象を理論的に解明しているのではない。序論で米国の1929年恐慌のデータが掲げられている…

『三島由紀夫全集3』 三島由紀夫著

この全集版の『禁色』の「創作ノート」をみると、「転生譚(イギリスに先例あり)」というメモがあり、当初は五つの事件により、思想・恋愛・社会・生殖・行動の問題を扱う構想があったようだ。結末における「檜俊輔」の救済についても何種類もの筋書きが検…

『経済学の宇宙』 岩井克人著

本書は日経新聞連載に加筆されたもので、初めのうちは一応インタビュー形式となっているが、内容は自叙伝そのものである。赴任先の米国やイタリアの情景描写も豊富であり、岩井理論の発展過程が実人生とともに平易に語られていて興味深い。また以前から感じ…

『ニーチェと悪循環』ピエール・クロソウスキー著 兼子正勝訳

本書の独自性は記号論によってニーチェの永遠回帰と超人思想を解釈したことにある。したがって著者の独特の記号論を踏まえないと最初の部分は意味不明であろう。46頁の「欲動の記号論の起源としての病的諸状態」から読み始めるのが分かり易いかもしれない。 …